次第にひがみ根性が出た

そんな時、兄の修一はわざとらしい読本の朗読で、学校では級長であつた。見れば兄は頭の大きなところ、眉毛が毛虫のやうに太いところ、口を歪(ゆが)めてものを言ふところなど、父親にそつくりで、その点でも父親の気に入りらしかつた。
 が、それにくらべると、楢雄はだいいち眉毛からしてフハフハと薄くて、顔全体がノツペリし、だから自分は父親に嫌はれてゐるのだと、次第にひがみ根性が出た。そして、この根性で向ふと、なほ嫌はれてゐるやうな気がして、いつそサバサバしたが、けれどもやはり子供心に悲しく、嫌はれてゐるのは頭が悪くて学校の出来ないせゐだと、せつせと勉強してみても、しかし兄には追ひ付けず、兄の後(うしろ)でこが異様に飛び出てゐるのを見て、何か溜息つき、溜息つきながら寝るときまつて空を飛ぶ夢、そして明け方には牛に頭を齧(かじ)られる夢を見てゐるうちに、やがて十三になつた。
 ある夜、何にうなされたのか、覚えはなかつたが、はつと眼をさますと、蒲団も畳もなくなつてゐて、板の上に寝てゐると思つた、いきなり飛び起きて、
「泥棒や、泥棒や。畳がない。」


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